24 June,2007
POSTED18:54:02
出版物の活字は、インクが紙に定着してしまっているので、動きません。しかし、この「動かない」ということが機能になります。機能という言葉から連想するものは、器用に動き回ったり、アクティブに処理をしてくれるものを想像しやすいのですが、「何があっても動かない」ということも機能に含めて良いと思います。ちなみに紙には「落としても壊れない」「スイッチを入れなくても文字が表示される(そもそもスイッチがないのに起動する)」など、画期的な機能がたくさんあるのですが、あまりにも当たり前のことなので、ユーザーもそれを作る当事者もそれをアピールすることはありません。逆に、PCの広告などを見ていると、紙が当たり前のようにできることがほとんどできないことに大きなコンプレックスを抱いていることを隠すべく、必死で弁明しているように聞こえます。
書籍の活字は何があっても動かないことを保障しているので、いつ見ても、同じ本の同じページには同じことが書いてあります。これは絶対的な安心感につながります。一方、Webサイトの文字は「動かない」ことを保障するということはほとんどありません。パーマリンク(Permalink)で絶対URLを保障したとしても、ブラウザで文字サイズを変えたりすることでいくらでもユーザが能動的に印象を変えることができます。
ところで、「Webマガジン」という言葉は今でも日常的に使われているようです。クリックしていく感覚がページをめくるのと似ている、とか、「ある切り口で特定のターゲットに向けた編集を施した雑誌のようなもの」という説明がわかりやすい、ということから利用される言葉なのでしょう。しかし、前述のように、文字の定着を機能とするものと、文字の浮遊を機能とするものを、同じようなものだ、と捕らえるのは少々危険かもしれません。
むしろ、「文字が浮遊しているもの」に感覚的に近いのは、私たちの日常会話かもしれません。電話での会話→メールでのやり取り→Webでの掲示板は同じ仲間のように思えます。従って「Webマガジン」と呼ばれているもの、つまり「マガジンのようなWeb」は、なんだか奇妙なものにしかならないということになります。つまり間違っている可能性が高い。
どんなに雑誌のマネをしても、Webは電話にしかならないのだとすれば、むしろ「すごい電話」をWebで作るほうが手っ取り早いということになるわけですし(こういう発想でskypeが登場したわけではないでしょうけど)、いくらWebで雑誌もどきを作っても商売にならない、ということも多いはずです(私の会社にはこういう問い合わせが結構多いのです)。
いずれにせよこれに限らず、一見わかりやすいメタファーがとんでもない誤解を与えることがあるということには留意したほうが良いかもしれません。特に、最近登場してきた新しい言葉ではなく、昔から利用されてきた言葉、自分がそれに疑問を抱くことなく利用してきた言葉に悪意が込められているケース(e.g. 『年金に加入』とか『保険に入る』など、挙げたらキリがありませんが。。)が非常に多い、ということに意識的になってみるのは、事業開発のネタとしてみると面白いでしょう(これを倫理的・道義的なハナシに持っていってもあまり意味はありません)。