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25 May,2006
POSTED 8:57:07

トランスコーディングは関係が主役

「人間関係」は文字通り「関係」が主役であることを指し示す言葉です。AさんとBさんという2人の人間が会話をしているときに、主役になっているのはAさんやBさん自身ではなく、その2人でなければ醸し出すことのできない雰囲気です。それぞれが人として個性的である以上、その2人が醸し出す雰囲気は、他では絶対に再現できません。

さらに、その2人を包む周辺環境や様々な状況によって、その時でなければ再現できない関係がそこでリアルタイムに構成されることになります。これが「主役としての関係性」になります。

自分が何者であるか(自分探し)をするときに必要なのが、得体の知れない他人という反射板であるように、私たちには、発言や行動に対するリアクションを計らないと自分のことは何もわからないのです。自分が何者かを考えるために、1人になって沈思黙考するというのは極めて効率の悪い方法です。

これは人間関係だけに留まらず、メディア・マーケティングも同様に考えることができます。ある人の周辺に「テレビとPCがある状況」か、あるいは「テレビと携帯電話がある状況」かによって、当然彼の行動は異なってきます。一般にテレビでの視聴と連動しやすいのは携帯電話であり、PCではないということがよく知られていますが、この場合、テレビや携帯電話という「情報の容器」としてのコンテナは脇役に過ぎません。そのコンテナのつなげ方やユーザーが持っているコンテクスト(文脈あるいは前後関係)が主役になっています。

たいていの場合、この「主役としての関係性」を議論においても主役として遡上にあげる必要があり、「通信と放送の融合が進むとテレビはどうなるのか」というコンテナ(この場合はテレビ)を主役においた議論には実はあまり意味はありません。あくまで関係性の変化や連続性の切断・接続などを主体として考える必要があります。にもかかわらず、例えばテレビ局はテレビを主体にした議論をせざるを得ないというジレンマを抱えているわけです。

手に取ることができる実体ではなく、その実体をつないでいる、眼に見えない関係性が主役になっているというのは甚だやっかいなのですが、そういうものなのだから仕方ありません。しかし、逆に言えば、様々な関係は、ある程度、創作していくことが可能だということになります。

実際、私たちはある関係を創作するときに、ある種のコード(規約あるいは礼儀作法)を前提としたセットアップを始めます。彼女との始めてのデートのときに用意するであろうレストラン、結婚式に招待された時の服装(まさにこれはドレスコード)、気の置けない仲間とだけ行くであろう居酒屋、などもそうですが、例えば「怒る上司としかられる部下」が醸し出す雰囲気は、第三者から見たときには、まるで2人で協調して芝居をやっているかのように見えるはずです。関係を安定させるためにはここでもコードが必要になってくる、ということです。

動画データなどを別の形式に変換することをトランスコーディング(transcoding)と言いますが、このときに「この動画データに『付属』するもので変換したほうが良いデータが他に存在するのではないか」という考え方が重要になります。

映画館で上映された映画とそれを見た観客の「関係」と、その映画をDVDにして自宅のリビングでみている人との「関係」はかなり違うものになっていることが想定される以上、その映画の元データだけをトランスコーディングするのが正しいのかどうかは微妙です。

では他にトランスコーディングすべきものには何が考えられるでしょう。

1)状況のトランスコーディング

屋内で見たものを屋外でも見る(ワンセグはこれに近いかもしれません。実際には自宅での視聴が相当あると想定されていますが)、大勢で鑑賞していたものを1人で見る、あるいは元データへのアクセスプロセスの確保などもこれに含まれるでしょう。


2)時間軸のトランスコーディング

朝見ていたものを夜に見る、ライブだったものを録画で見る、春に撮影したものを秋に見る、というものです。


3)テロップのトランスコーディング

画面が小さくなったときに、適切な量と大きさに変換したり、適切な文字数に再編集したり、適切な要約やワーディングを施す、ということがあります。但し、この場合の「適切」が仮説設定法(abduction)で進めざるを得ないというところが難点かもしれません。


4)音と映像の知覚ウエイトのトランスコーディング

例えば、ワンセグで1時間のドラマを見る状況は、分析してみると「見る」というよりは「聴く」に近い可能性があります。


5)画像そのもののトランスコーディング

解像度、フォーマット、キャリア別対応、トリミング、伝送路への最適化などです。
これが一般にトランスコーディングだと思われているフシがあります。


6)再生可能性のトランスコーディング

一度だけ見る、繰り返し見る、トランスコーディング自体が目的(保存できればよ
い)、トランスコーディング自体が目的(誰かに渡したい)などです。


7)シナリオのトランスコーディング

上記の4)や1)と大きく関係します。例えば同じ動画でも、大きな画面のときはテンプレートaでいいのですが、これが小さな画面になったらテンプレートa´に変更する必要がある、ということ。これも恐らく経験則から導き出されることになるでしょう。これには「再生可能な時間セグメントが状況によって変動する」ということが大きく作用するはずです。電車の中で30分くらいで読みきったかんじがするように編集する、というのもこれと同じです。

8)制度のトランスコーディング

要するに権利処理(著作権管理)のことです。

Posted by takeda at 08:57 | Trackbacks [0]

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